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考える遊び指導者の会は―楽しく遊びながら「考える力」や「創造力」を養います―

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小林博士の参考文献


趣意書
めぼしい天然資源にこれといって恵まれない日本が二十一世紀を生き抜くためには、教育によるすぐれた人材の育成に力をつくす以外に方法はないといっても過言ではありますまい、今後、一層厳しさを増すであろう我々の生活環境の中で、冷静に物事を判断し、対応していけるだけの知性や順応性、そして豊かな創造性や科学性の育成こそ急務であろうかと思います。

しかし、小学生の間にまで広がりはじめた自殺、非行化・登校拒否あるいは学校や家庭内での暴力の問題を考える時、進学競争の激化によってゆがめられつつある今日の教育のあり方に私は大きな懸念を抱かざるをえません。

受験戦争に勝ち抜くため学校と塾通いに追いまくられ、わずかな息抜きをテレビとマンガに求めるという学童の置かれている状況は極めて寒々とした異常さを呈しているとしかいいようがない。

遊び場や友達はおろか、「遊び」そのものまでも奪われてしまった学童、自由な発想やまわり道や試行錯誤を許さない成績第一主義のオリの中に閉じ込められて窒息寸前の状態にある現代の子ども達は親や教育関係者が必らずといっていいほど口にする「創造的な個性ある人格」という願いとは全く逆の方向に連れ去られようとしています。

このままでは、日本の教育の将来は暗いといわざるを得ません。明日ではもう遅すぎます。
今日、我々教育者が自らのあやまちにめざめなければなりません。学童に知識や情報を一方的に「おしつける教育」から、正しい知識や情報に基づいて自分の頭で考え、自分の意志で行動し、結果に対して責任をもつ意志的な人格を養成するための「考えさせる教育」への転換を急がなければなりません。

私はこうした観点に立って微力ながら「ミニ科学教育博物館」の設立に尽力する所存であります。

私は、現在の学校教育が軽んじているものを重視し、失われつつあるものを取り戻す教育方針を貫きたい考えであります。

そのために、まず、学童に「遊び」を取り戻してやる積りです。ここでいう「遊び」とは単に体を動かす遊びではありません。

科学的・数理的な考え方が無意識のうちに系統立って身につくような知的な科学的な「考える遊び」であります。

学童が自らの発想に基づく試行錯誤をくりかえすうちに科学的な考え方や取り扱い方に気付き、科学的な法則や定理にまでゆきつけるように配慮された数々の考える遊びのできる教材を用意します。

まわりくどく、時間がかかりすぎるというだけの理由で学校で敬遠されがちな操作学習・検証学習・発見学習・思考学習を実践し、数えこむ教育から学童の中に眠っているものを起し、ひき出す教育への転換をはかり、ミニ博物館を生きた教科書にする覚悟です。

ミニ博物館はもちろん世界一小さな博物館だと思いますが、毎週展示物を取りかえ、毎日その中の一点・二点をとりあげ説明し、実演し、さらに学童に実習させます。

したがって、小さな博物館とはいえ機能的には従来の大きな博物館に勝っても劣らないものにできます。
無料開放もその特色のひとつといえるでしょう。
目的達成のためには、他から束縛を受けず、自由な運営ができるよう私はわずかな私費と身心を投じ、尽力します。
既に、香川大学においては支持の有志が準備委員会を作っています。さらに多くの人のご賛同をうることができれば幸いと存じます。

香川大学教授  故 小林 茂広

数感教育のすすめ(4)-積木算数-   小林 茂広
「数感教育」が数量学習と図形学習のバランスのとれた算数教育を目指すものであることをこれまで力説してきた。
そして、従来疎かにされている図形学習の充実によって、算数は子どもにとって具体的な、内容のつかみ易いものになるということを実例を挙げて説明してきた。

今回は第二回目のサイコロ利用の数量学習、第三回目の○△□パズル利用の数量と平面図形の融合学習に続いて立体図形の教育方法について述べる。

立体図形学習は分かりにくいうえに、今まで適当な教具もなかった。私は数感を伸ばすための新しい積木を考案し、「知恵の積木234」と名付けている。今回はそれを用いて平面図形から立体図形作成までの数感教育の方法を説明する。

魔の立方体と「知恵の積木234」
昔から魔の立方体として知られ、ソーマーの名前で呼ばれている積木がある。

それは3つ、あるいは4つの単位立方体を面と面とで接続した凹形立体7個からなり、うまく組み合わせると一つの大きな立方体ができる。

その組み合わせ方はいろいろ(240通りも)あるにもかかわらず容易に組み合わせできないので、魔の立方体と言われるのである。

これは積木としても建物や動物ができるので愛好されてきた。しかし、立体図形学習の教具としては不十分である。

そのためソーマ―の利点は残し、さらに数感教育に幅広く利用できるものに改良したのが「知恵の積木234」である。


この名の由来は、図1のようにこの積み木が単位立方体を2個、3個あるいは4個接続したものからできていることによる。

しかも、どの立方体もすべてめんを取ってあるので各積木の構成立方体の個数が明瞭であり、色板と同様、組み合わせてできる図形の大きさも、容易にディジタル的に表現できる。

積木でありながらこのような数量的工夫を凝らしてあるため立体図形の学習が楽に行えるのである。

動物作り
組み木的な要素を使わずに容易に、しかも数多く作れる動物はへび(図6)である。
積木の並べ替えで何十何百と形の違ったへびが出来ることは高校で学ぶ順列・組み合わせのレディネス作りに役立つ。


組み木的な要素を使って作った動物の一例(図7のひとつ)ができると、その一部を交換したり、移動していくつも異なる形の動物(図7のその他すべて)ができる。

これは図7の動物だけに限られるものではない。このことを知った子供はすべて自分の作った動物の形を変えようと努力する。

これが創造性を育てる具体的な方法になるのである。



「知恵の積木234」では4本足で立つものや2本足で立つものもいろいろ作れる。

図8は複雑な動物例である。

○△□パズルの得意な子でも「積木234」には最初とまどいを感じるようだ。が、慣れると皆おもしろいと言う。

このことは立体の取扱いがいかに難しいかを示している。

図面を描いたり、読み取ったりするのが苦手な子どもが増加している今、立体図形学習の充実が望まれている。

「積木234」は図面を見て物を作る過程で観察力や分析力や創造力、さらに創造性を育てるのに非常に有効な教具であると言えよう。
(徳島文理大学教授・「考える遊び」教育研究所所長)



消去法の体得
「積木Yを2個、図2のように重ねたものを他の積木を組み合わせて作りましょう。」という問いに対して、方程式の解法で習った消去法を応用するお母さんはほとんどいない。

うまく合いそうなものを組み合わせてみる試行錯誤を繰り返す。

二重のYになり得る積木かどうかの検討をして、2、3、4などすべて不適格と判断されるので除くとA、C、Lしか残らず、AまたはCと、Lを組み合わせてみるとよいのだが、この消去法が身についていないのである。

AとLの組み合わせに成功した人でも、CとLの組み合わせが出来ない人は多い。

それはLを裏返ししないためである。

色板の非対称な台形は必要に応じてすぐ裏返しできるが、厚みのあるLは積極的な裏返しが難しい。


立てる平面図形
積木は立つものと考えている人にはこのタイトルは奇妙に聞こえるかもしれない。

しかし、「知恵の積木234」の特色は積木でありながら、平面図形作成にも使え、しかもそのできた平面図形を立てることもできることにある。

平面的な知恵の積木2、3、4、I、L、N、Yの一部あるいは全部を使って立つ簡単な動物が千に余っていろいろ作れる。

図3はその若千例である。この平面図形作りは殊に幼児や低学年の学童のための数感教育に好適である。



簡単な図形は出来ても、少し複雑な図形になると出来ないという学童が多い。

しかし、この子等も原寸大の図形に載せさせると容易に出来る。

積木遊びに原寸大の図を用いるのはユニークな試みであるが、出来ない子どもには原寸大の図形を与えるという工夫が
教育には必要なのである。

これは第二回目に紹介した「○△□パズル」で作る図形についても同様である。

縮小図形で描かれた図面を見せてそれと同じものを創れといきなり言われて、出来なければ萎縮してしまう子は案外多い。

分からない子や出来ない子どもには分からせる工夫が必要なのである。工夫もせずにすぐ解答を教えたり、「出来ない子、駄目な子」ときめつける教育の方法では子どもの知能を伸ばすことは不可能だと私は思う。

さて、出来た平面図形の積木が立たないと訴える子もいるが、どれもうまく作ると立つはずと教えると作り直して立てようとする。

非常に面白がって試みる。最初は思いつくままに試行錯誤しているが、慣れてくると構成単位立方体の個数を数えて、上の例では構成単位10を2+4+4あるいは3+3+4に分解して始めるようになる。つまり、それだけその子の数感は伸びたのである。

こうしなさい、ああしなさいと教えられて出来たのではなく、自分で見つけたうまい方法に喜びを味わいながら得た能力である。

発見の喜びを知ること、これこそ本当の学習である。

「積木234」は自分の目で見、自分の頭で考え、自分の手で試行させて学習の喜びを発見させるによい教具と言える。

相似体を作る
立つ簡単な動物作りの次は立体幾何学図形作りである。

まず、相似形作りを経験させてから相似体作りに移る。

相似体の例は、積木2と3で出来る鳥(図4の上)と同じ形でもっと大きなものを平面的な積木7個のうち1個を除いて作らせる。

できた図形をディジタル的に捉えることに慣れた子どもは教えなくても除くべき1個が4単位の4、L、N、Yのどれでもよいことに気付き、縦横2倍の相似形の面積は4倍になることを知る。

10個のそれぞれの積木の相似体ーすなわち縦横奥行きとも2倍したものーをそれ自体は使わずに作らせる(図4の下に立体的な積木AとA以外の9個で作ったAの相似体を例として示してある)とやはり、単位立方体の数を数えて一辺2倍の相似体の体積は元の8倍であることを操作学習からつきとめるのである。

今までこのような教具はなかったが、「積木234」はそこに凝らされた数理的工夫によって教えにくく、また、分かりにくい立体図形学習を具体的に目で捉え、手で学べるものにしたのである。



対称形を作る
対称性も算数・数学では重要な概念であるが、平面的な知恵の積木7個の一部あるいは全部を使うと左右対称な門や橋や建物が作れるので、対称図形を具体的に作り出して学習させるのに好都合である。

例えば、積木4を除いた6個で作った門に4も加えて左右対称な門に作り変えさせる。

あるいは、積木2を除いた6個の門に2も加えた左右対称な門にさせるなどである(図5)。

以上でお分かりのように「積木234」は単なる積木ではなく、その凹凸を利用した組み木遊びができる。

積木は元来、幼児の工具と考えられてきたが、組み木でもある「積木234」は学童の教具になるのである。

もちろん、10個全部使って対称的な立体図形を作ることもできる。